TOKYO MARTECH BLOG

MarTechのトレンドや要素技術、各種サービスについて取り上げて紹介していきます。

「すべての顧客は等しく重要」という幻想

データ・ドリブンなマーケティングを実施するにあたり、「すべての顧客は等しく重要」という幻想を捨て去ったときに大きなビジネスチャンスが見えてくることは少なくありません。

すべての顧客は等しく重要......ではない

企業の顧客対応の現場において、あらゆる顧客に対して一律のサービスレベルを定義することでマーケティングや営業、カスタマーサポートの品質と効率を管理していることは少なくないように思います。 しかし、「データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標」においては、この考え方を捨て、「顧客生涯価値」(Customer Life Time Value、略してCLTV)の考え方を導入することを推奨しています。

上位数10%の顧客が、全体の売上の90%以上を占めている場合、この上位数10%の顧客の中から離脱が発生すれば、事業全体に甚大な影響が発生することは言うまでもないことだ。そして、このような80対20の法則に近いことは、ある程度どのような企業でも起こっていることなのだ。したがって、すべての顧客は平等ではないという現実に即した形でマーケティングおよび営業を組み立てる方が、明らかに理にかなっている。

現実の事業における顧客単価構成と「80:20の法則」

では、このような80対20の法則は実際にどのくらい現実に即しているのでしょうか。私自身が運営に携わっているBtoBのクラウド型サービス事業で2012年に調査した事例を紹介します。

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※価格帯は廉価なほうからA、B…Eとしています。

当該BtoBサービスの場合、ほぼ均一な価格ラインナップの商品であったために、顧客ごとの差がほとんどない状態で企業に利用を頂いている状態でした。 逆に言うと、全顧客に「平等至上主義のマーケティングと営業」を行ってきた結果、本来利用料金が伸びるべき顧客企業に対してもアップセルができていない状態だったといえます。

この結果は恥ずかしい話ですが、「平等至上主義のマーケティングと営業」の弊害と言えます。このような「悪平等」状態に陥っている企業や事業は少なくないのではないでしょうか。

「80:20の法則」で顧客企業構成をポートフォリオ管理する

対策としては、80:20の法則(ビジネスにおいては、「売上の8割は全顧客の2割が生み出す」という経験則)を踏まえつつ、現状の顧客企業構成をポートフォリオ管理することが大事だと考えます。実際前述のデータ・ドリブン・マーケティングにおいても下記の主張がなされています。

自社の顧客全体の CLTVを理解し、その最大化を図るのが新たなマーケティ ング戦略の手法だ。高価値セグメントに対しては維持およびさらなるアップ セル、クロスセルを、中価値セグメントに対してはアップセルとクロスセル を通じたCLTV向上を、そしてCLTVがマイナスの顧客層に対しては支出 の最小化を図っていく。

上記の事例では、80:20の法則に照らし合わせ、下記の2つの問いを立てました。

  • 現在の顧客のなかに、より大きな売上を生みだす顧客がいるかもしれない。売上の8割を生みだす顧客は既存顧客のなかのどこにいるのか?

    • この問いに答えることで、現在の顧客のなかでより切実なニーズを持っている企業に対して、より高度な商品価値を提供していく方向性が考えられそうです。(方向性1)
  • 現在の顧客は実は売上の8割を生みだす中心顧客で、残りの2割の顧客を獲得できていないのかもしれない。残りの2割を獲得する販売計画は?

    • この問いに答えることで、現状の機能を切り出し、より廉価なプランを提供していく方向性が考えられそうです。(方向性2)

既存顧客へのアップセルの試みとして、今年は既存顧客企業にさらに当該サービスを利用してもらうためのキャンペーンを多数実施ししました。そのうち多くで一定の成果を上げることができました。

SaaSサービスにおけるポートフォリオ管理

ちなみにSaaSサービスにおいては、80:20の法則で言うなら20の企業向けにはハイタッチ(高頻度なカスタマーサクセスの提供)、一方80の企業向けにはテックタッチ(顧客自身による自己解決が可能な技術提供)で済むプロダクトを提供すべき、ということが言われます。

またそのSaaSのスタートアップにおいては、上記の前提に沿った成長戦略として、まずはSMB向けに顧客満足を獲得するプロダクトを提供し、成長に従ってエンタープライズ向けに受け入れられるようプロダクトを強化していく1^ことが定石とされます。

「顧客生涯価値」をあらゆるバリューチェーンにおいて一貫する

企業における顧客対応の思想を「すべての顧客は等しく重要」ではなく、「顧客生涯価値」に置くことは、上記のようなマーケティング活動のみならず、事業のあらゆるバリューチェーンにおいて有用な考え方でしょう。

  • 例えばクレジットカード会社が、一般カード会員とゴールド/プラチナカード会員でサポート電話番号を分け、サービスレベルを巧みにコントロールしているのもその一環と言えそうです。
  • 他にも注意してみていくと、千円カットサービスの「QBハウス」や「イケア」など、大胆なサービスレベルのコントロールを戦略的に行っている企業の存在に気づくことができます。

一律のサービスレベルを定義することはもちろん大事ですが、そのサービスレベルはあくまでミニマムラインとして戦略的に定義することが、「顧客生涯価値」に沿ったビジネス活動を円滑に実施するために不可欠となってきます。

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