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マーケティングの「投資回収期間」指標管理の実際

財務のあらゆる局面において投資回収期間(英語でPayback Period)が重要なことは言うまでもありません。マーケティング予算の管理においても、この概念を目標管理することは経営との接続の意味でも重要です。 しかしマーケティングにおける投資回収期間の測定は煩雑な論点が多く、適切な測定がなかなか難しいと感じます。

投資回収期間の定義

マーク・ジェフリー著の「データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標」においては、「投資回収期間」は下記の通り定義されています。

投資回収期間 = 投じた累計支出と同額の累計利益を稼ぐまでにかかる時間

15のデータ・ドリブン・マーケティング指標のなかで「投資回収期間」は財務系指標の1つとして位置付けられ、経営に対して投資リターンを示すための重要指標として説明されています。

また、SaaS事業では類似概念として「CAC Payback Period」というものがあり、下記のように定義されています。

CAC Payback Period = CAC / (MRR per customer)

ここで「CAC」はCustomer Acquisition Costの略で1顧客あたりの獲得コスト、「MRR」はMonthly Recurring Revenueの略で月次継続売上を意味します。 つまり「CAC Payback Period」は「1顧客の獲得に要したコストを、その顧客の契約料金の支払い何ヶ月分で回収できるか」という指標となります。

現実のSaaS事業における投資回収期間

実際に現実の事業ではこの概念をどのようにマーケティング活動の改善に活かすことができるのでしょうか。 私自身が運営に携わっているBtoBのクラウド型サービス事業で2012年に調査した事例を紹介します。

当事業における投資回収期間

当事業においてはCACを契約プランの6ヶ月分のコストとおいてマーケティング活動を実施していました。その大まかな流れは例えばオンラインマーケティング施策(当時のマーケティング予算の中心)においては下記となります。

  1. 検索連動型広告や自然検索からの流入
  2. 見込顧客からの問い合わせやトライアル申込
  3. 問い合わせへの回答、トライアルのご案内
  4. トライアル申込手続き
  5. サービスの初期設定・アカウント開設
  6. 課金開始

2012年に問い合わせから導入開始までのリードタイムを収集整理してみた結果が下記となります。(縦軸は日数)

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1ヶ月間の無料トライアルをメニューとして用意していたこともあり、平均して79日間のリードタイムがかかっていました。そのため、投資回収期間は6ヶ月を加算しておおよそ9ヶ月間となる計算です。

また、グラフからは見て取れる通り、契約プランによるボラティリティも非常に高いものがあり、「UI改善プラン」というプランにおいてリードタイムが非常に長くなっていました。

投資回収期間短縮のための改善活動

改善において大きな成果を示したのは、下記の2つです。

トライアルの停止

無料トライアルキャンペーンの実施の是非については諸説あるところですが、本サービスの場合は

  • 製品ライフサイクルとしても成熟期にあったこと
  • そのなかで本サービスの認知が取れていたこと

から、無料トライアルを停止したとしても新規契約をする顧客が多数であると予想できたため、トライアルの停止を実施しました。

契約プランの停止

前述の通り、契約プランの一部において、課金開始前の導入作業が非常に時間がかかることが原因で課金開始までの期間が長くなっており、これがPayback Periodの長期化に加え、社内工数も圧迫する結果となっていました。 こちらの契約プランに関してはそこまでリードも多く発生していなかったことから新規利用停止する判断を取りました。

結果

他に、

  • 導入の流れの簡易化、見える化、一部自動化
  • マニュアルの充実などによる顧客側作業の簡易化

なども実施し、それらも一定の成果がありました。

以上の改善活動によりリードタイムをおおよそ1/3に短縮することができました。 Payback Periodとしても約9ヶ月→約7ヶ月に短縮できた計算となります。

ちなみにスタートアップにおいてはPayback Periodは6〜12ヶ月以内が健全であると言われている1ようです。(もちろん製品ライフサイクルや競合事情などの個別の背景によって適切なPaybak Preiodは異なってきます)

マーケティングにおける投資回収期間の管理をめぐる課題

実際のマーケティング活動においては、下記のような課題がマーケティングにおける投資回収期間算出の障害になっているように思います。

  • マーケティングキャンペーンによっては予算投下のタイミングが長期に渡ることが多く、どの区切りで投資回収期間を算出するかが曖昧
  • そもそも前提となる数値が収集できる環境がない。とあるマーケティングキャンペーンで獲得した顧客数を(他のキャンペーンと区別して)算出できない、など

上で紹介した事例においても、必要な情報を収集し適切な数値を算出するのには都度何時間もの手作業が必要で、結果数えるほどしか実施することができませんでした。このようなメトリクスが自動で、もしくは低コストで収集分析できるような基盤の整備は、データ・ドリブン・マーケティングの軌道的な実施の大前提だなと感じます。

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