TOKYO MARTECH BLOG

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マーケティングファネルを時代遅れにした3つの要因

マーケティングを考えるうえでよく使われてきたモデルが、マーケティングファネル。しかしマーケティングファネルの考え方は今日のマーケティングにおいて時代遅れになってきているのではないでしょうか。

マーケティングファネルとは

マーケティングファネルとは、一般に、商品・サービスの購買に至る顧客行動の過程をフェーズ分けしたものをモデル化したものです。 ファネルは漏斗の意味で、広く集客したうえで、ふるいにかけられた見込み顧客が、検討・商談、そして成約へ流れる中で段々と少数になっていき、図にすると、漏斗で濾した様子に似ているところからそう呼ばれています。 それは基本的にまっすぐ伸びる片側通行の道で、見込み客はそこを通って満足感、そしてできれば契約へと導かれる、とされます。

マーケティングファネルの根拠となる顧客行動モデル

マーケティングファネルは、米国のサミュエル・ローランドホールによって提唱された、顧客が購買に至るまでの心理プロセスの変化を示した略語、AIDMA(アイドマ)モデルを発展させて生まれた考え方です。 AIDMAモデルでは、顧客心理は製品購買までに、下記の一連の段階をたどると考えます。

  1. Attention:注意を引かれる
  2. Interest:関心を持つ
  3. Desire:欲求を抱く
  4. Memory:記憶する
  5. Action:行動に移す

その後、インターネット普及時代の購買行動を指すものとして「AISAS(アイサス)」・「SIPS(シップス)」などのモデルが提唱されてきました。こういったモデルは分かりやすくマーケティングの現実を一断面から切り取るものとして、ネット上での解説記事も多く存在します。

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マーケティングファネルは死んだ」

しかし、2009年にMcKinsey社が実施した調査結果では、既に従来の「購買への導線」はもはや機能していないも同然であることが主張されています。

By looking just at the traditional marketing funnel’s front or back end, companies could miss exciting opportunities not only to focus investments on the most important points of the decision journey but also to target the right customers. 1

2015年10月には、Google社のデジタルマーケティングエヴァンジェリスト(当時)のアビナッシュ・コーシックが、とあるカンファレンスの基調講演で「マーケティングファネルは死んだ」と発言して話題になりました。

The marketing funnel is dead. Again. Or at least, it should be. 2

それから3年経過した現在、「マーケティングファネルの死」は既に前提視せざるを得ないところまで現実化していると言えます。

マーケティングファネルを時代遅れにした3つの要因

マーケティングファネルにはもともと、下記の限界がありました。

  • ファネルでは、多様な顧客行動の最大公約数しか認識できない
  • ファネルでは、見込み客が購入まで直線的に進んでいくかのようだが、現実はそう単純ではない
  • ファネルでは、顧客の購買体験そのものや購買後のことを認識できない/軽視してしまう

下記の3つのコンテキストが、これらの限界を決定的なものにし、「マーケティングファネルの死」をもたらしたのだと考えます。

1. 消費者価値観の変化

もともとマーケティングといえば、1908年のアメリカのフォード自動車の成功例がよく起源とされる通り、大量生産された商品をマスに対して大量販売することを指しました。メディアを駆使する広告主側が、あるべき消費者像を画一的に定義してはメッセージ拡大・普及させていったのです。

例えば、1950年代の米国における「平均的な」家族の理想像は次のようなものと定義されました。

  • 大都市の郊外に住む白人家庭
  • 子どもは2人の核家族、1匹の犬を飼う
  • イカーを1台所有

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広告の多くがこのようなモデル化されたオーディエンスをターゲットにしていました。消費者側も、新聞、雑誌、看板広告、テレビ、ラジオといった限られたメディアを通じて発信されるマーケティング・メッセージを、ただ受け入れるだけでした。そして実際、それによりモノが売れたのです。皆が共通認識のもとに購買するものが存在し、「3S(炊飯器・掃除機・洗濯機)」「3C(カラーテレビ・クーラー・カー)」のような言葉も生まれました。

しかし現在では高度消費社会になって人々の好みは多様化し、それぞれの人が所属する狭い共同体の中(いわゆる「島宇宙」)だけで通用する価値観に基づいて購買活動も行うようになりました。 たとえばNRIが3年おきに実施している「生活者1万人アンケート」 3 では、商品を選ぶ際の価値観は価格を重視する人が大幅に減少していることに対し、自分のライフスタイルや好きなものであるか、気に入っているかどうか、というように「自分に合っているかどうか」を重視する人が増加傾向にあることが見てとれます。

2. 消費者とのコミュニケーション手段の多様化

消費者とのコミュニケーション手段も多様化しています。 インターネットの普及、なかでもソーシャルメディアやレビューサイトの普及を受けて、個人間のコミュニケーションにも企業との付き合い方にも、従来とは異なる新たな手法が利用されるようになりました。それに伴い、新聞、雑誌、看板広告、テレビ、ラジオといったチャネルのプレゼンスは大きく低下し、消費者と企業の力関係が完全に逆転する状況になりました。消費者はもはや、マーケティングを仕掛ける側から一方通行の情報をただ受け取るのではなく、自ら情報を発信したり、評価したりすることが可能です。

カスタマー・ジャーニーも、これまでのように単純なものではなく、購入の意思決定は複数のチャネルを横断して行われるようになっています。例えば、

  • インターネットに掲載されたレビューの閲覧(評価の低いレビューを閲覧することで購入意欲が一歩後退することもあるかもしれません)
  • ブランドの印象をめぐるソーシャルメディア上でのコミュニケーション(購入前にシェアして友人の反応を見ることが購入のきっかけになるかもしれません)

などです。これらのマーケティング・コミュニケーションをリードするのはマーケッターではなく、消費者自身ですが、いずれにせよ見込み客が購入まで直線的に進んでいくかのような購入プロセスからは大きく逸脱しています。

3. シェアリング・エコノミー、サブスクリプション・エコノミー

消費者価値観の変化に伴い、シェアリング・エコノミーやサブスクリプション・エコノミーも進展しています。これらに特徴的なのは体験が「モノ」でなく「コト」であることです。購買行動によりモノを買うことそのものよりも、購買を「体験する」ことそのものに重点が置かれています。

このような新しいエコノミー(経済)においてはマーケティング自体の目的設定も、「購買させること」から「共有させること」「体験させること」に変わってきます。そこには従来のマーケティング・ファネルでは説明できないようなマーケティング領域が存在しています。

例えばサブスクリプション・エコノミーでは、顧客は契約後も、会社の売上にずっと貢献してくれます。契約後もマーケティングによって売上が伸びることもあります。そのため、サブスクリプションビジネスに関わるマーケターは、カスタマーアドボカシー(企業が顧客の利益を最大化するために誠実な支援を行うこと)、リテンション(既存顧客との関係を維持していくためのマーケティング活動)、アップセルなども自らの責務にすることで、顧客のカスタマージャーニーをサポートする必要があります。ここでは、マーケティングのプロセスは直線型の一方通行ではなく、意味のあるフィードバックループを含んでいます。これは「サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方」によれば、ファネルというよりはフレンチホルンのようなものだとされています。

マーケティングファネルからアジャイルマーケティング

マーケティングファネルが時代遅れとなった今、マーケターは異なるタッチポイントを横断して消費者に効果的にアプローチする方法を学ばなければなりません。それは一般論としてのマーケティング・メッセージに依存する従来の手法ではなく、購入サイクルの異なるタッチポイントで、異なるオーディエンスに的確にアプローチする、ターゲティング重視のコミュニケーション手法となるでしょう。そのためのキーワードが「アジャイルマーケティング」です。

アジャイルマーケティングとは

そもそもアジャイルとはソフトウェア開発で用いられていた開発・マネジメント手法で、計画や業務を短期間のフェーズに分割し頻繁に見直しと適用を図ることを意味します。「ハッキング・マーケティング 実験と改善の高速なサイクルがイノベーションを次々と生み出す (MarkeZine BOOKS)」によれば、それをマーケティングに取り入れる意義は下記の通りです。

デジタルのスピードと適応力に後押しされて、マーケティングの世界で、もっと広く言うとビジネス全体において、アジリティが追求されるようになっている。デジタルのスピードにより、新たなチャンスや脅威、変化する環境、市場からのフィードバックに素早く対応できる可能性が生まれる。また、デジタルの適応力により、コンテンツやサービスを大規模に、かつ正確に、そして比較的簡単に変化させられる可能性が生まれる。

例えば下記のような活動です。

  • 顧客か顧客ごとに多様なカスタマー・ジャーニーのどの段階にいるかを常に把握する
  • ウェブサイトやソーシャルメディア上でのWeb接客により、常に最新の顧客ニーズを把握し、リアルタイムで対応する
  • 「test-and-learn」アプローチによりこれらの活動の成果を迅速に測定し、データに基づいて次のアプローチを意思決定する

そのためには、消費者を中心としたデジタル・プラットフォーム上で、顧客のニーズを幅広く収集・分析できる環境の整備も不可欠となります。

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サブスクリプション・マーケティング

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ハッキング・マーケティング 実験と改善の高速なサイクルがイノベーションを次々と生み出す

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