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本当に「サブスクリプション・エコノミーは拡大」しているのか?エビデンスまとめ

以前も取り上げた「サブスクリプション・エコノミー」。多くの書籍やウェブサイト等でも特に最近「サブスクリプション・エコノミーが拡大している」といった論調が2017年あたりから増えてきたように思います。

確かに成功した企業もあるが、、

サブスクリプション・エコノミー」の到来を取り沙汰する際によく参照されるのが、下記のようなもともと別のビジネスモデルで成功していた企業による「サブスクリプション・モデル」への取り組みです。

1. AdobePhotoshopなどの画像ソフトをサブスクリプションモデルに転換に成功

Photoshop」や「Illustrator」をパッケージ販売していたアドビシステムズは2012年にCC(Creative Cloud)にビジネスの主力を移すと発表、2013年には当時のパッケージソフトのシリーズ、CS(Creative Suite)を停止。「Adobe Creative Cloud」「Adobe Document Cloud」「Adobe Experience Cloud」の3つのクラウド製品を販売する戦略を取り、結果、定額課金収益は2012年時点では全体の27%だったところ、2017Q3時点で88%に達し、ビジネスモデルを完全にサブスクリプションモデルにほぼ移行完了しています。

2. Microsoftは「Office」関連製品をサブスクリプション型に転換

Excel」、「Word」、「PowerPoint」をパッケージソフトのみで販売していたマイクロソフト。しかし、「Googleスプレッドシート」等のGoogleクラウドオフィスサービスの普及を後追いする形で「Office 365」によるオフィスサービスのクラウド化、サブスクリプションモデル化を実施。結果、日本では2015年に「Office 365」が「Googla Apps」を上回るシェアを得る結果に。日本法人のクラウド事業の売上比率は2017年度第4四半期(2017年4~6月)で47%まで上昇

3. 「Amazonプライム」の会員は全世界で1億人超え

アマゾンがアメリカで2005年に開始した「Amazonプライム」の会員は全世界で1億人超え。これによる定期購入売上(「Amazonプライム」の会員費など)は2017年決算で97億2200万ドルで対前年比49%増とされています。「アメリカではプライム会員数は8800万人」「米国のアマゾンの全顧客に占めるPrime会員の比率は63%と、ほぼ3分の2に上る」とする調査もあり、アマゾンの「Amazonプライム」への取り組み姿勢がうかがえます。

会員数推移

テクノロジーセクターのこれら巨人が「サブスクリプション・モデル」への転換において華々しい成功を収めているのは、確かに注目に値します。

ではマクロな絶対値は?

しかし、本当にマクロで見て「サブスクリプション・エコノミーは拡大」しているのでしょうか。 マクロでこれについて調査されているものは意外に多くありません。公開されているエビデンスは例えば下記の通りです。

1. アメリカ国民はサブスクリプションに年間1人あたり131ドルを支出。15年前の約二倍

少し古いですが、クレディ・スイスの2015年のレポートに下記の報告があります。

Credit Suisse reported that people in the U.S. spent $420 billion on subscriptions, up from $215 billion in 2000.

アメリカの人口を3.2億人とすると、年間1人あたり131ドルを支出している計算となります。月間12ドル。…意外に少ないなぁという所感です。

2. 「Zuora」によると、サブスクリプション・ビジネスの企業は米国小売売上高の4倍の速度で成長

Zuoraは「サブスクリプション・エコノミー」を作り出したTien Tzuoが創業したサブスクリプション・ビジネス向けプラットフォームを提供する企業です。 そのZuoraが発表した「Subscription Economy Index」によると、2012年1月1日から2016年9月30日までの成長率は、サブスクリプション・エコノミーが115.1%であったのに対し、S&P500企業は101.7%、米国小売売上高はECを含めて103.6%だったとのこと。

つまり、サブスクリプション・エコノミーはS&P500種企業の9倍、米国小売売上高の4倍の速度で成長したことになると説明しています。 しかし、サブスクリプション・ビジネスに関する成長率の調査対象は「Zuora」の利用企業であり、サブスクリプション・エコノミー全体を示すものではありません。

  • 「Zuora」の利用企業はスタートアップ、つまり急成長を目指す企業の割合が多いことが考えられます。このような企業では成長率がもともと平均企業よりも高いことが想定されます。
  • またセクターとしてもテクノロジーセクターが多く、このような企業の成長率も、もともと平均企業よりも高いことが想定されます。

これらの母集団の違いによる生じるノイズを除去した際に、このレポートが「Zuora」のポジショントーク以上にエビデンスたりうるのかについては、やや疑義がつくところです。

3. 2018年、5000億ドル規模のソフトウェア市場の31%をサブスクリプション型が占めると予想

少し古い情報ですが、ソフトウェア業界では拡大していると納得しうる調査が提供されていました。 IDCによる調査において、2018年、5000億ドル規模のソフトウェア市場の31%をサブスクリプション型が占めると予想しています。

More Software Sold as Subscriptions

まとめ

「過度な期待のピーク期」を超えて

以上、マクロの数字を見るところでは、2018年現在、「サブスクリプション・エコノミー時代の到来」を語れるのはBtoBのソフトウェアセクターのみとするのがフェアな見方でしょう。

BtoCの市場における「サブスクリプション・エコノミー」の浸透度は低いですし、「サブスクリプション・エコノミー」では代替しえない市場だってあるでしょう。 (大型スーパーから地理的に離れていることも多いアメリカではまだしも、日本の都市部で暮らしていると、食料品・日用品などの買い物にはそれほど不自由がありません。) また、アメリカでは歯ブラシなどの日用品をサブスクリプションモデルで展開するスタートアップが2011年頃から多数出現し、一時期注目を集めましたがそれぞれ紆余曲折をたどっているようです。

そもそも「サブスクリプション・エコノミー」は現在、ハイプ・サイクルでいう「過度な期待のピーク期」にあるのかもしれません。

サブスクリプション・エコノミーとマーケティングテクノロジー

しかし、少なくともソフトウェアセクターではBtoBのみならずBtoCにおいても「サブスクリプション・エコノミー」は拡大していくでしょうし、それはマーケティングにも下記のような変化をもたらしていくでしょう。

  • カスタマーアドボカシー(企業が顧客の利益を最大化するために誠実な支援を行うこと)、リテンション(既存顧客との関係を維持していくためのマーケティング活動)、アップセルなどもマーケッターの責務となっていく
  • 「カスタマーサクセス」という考え方やキャリアの重要性がいよいよ増していく

幻滅期を乗り越えたあとの「サブスクリプション・エコノミー」を、どのようなマーケティングテクノロジーでもって支援し運用していくのか。このあたりも今後興味のつきないトピックとなりそうです。

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サブスクリプション・マーケティング

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