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カスタマージャーニーマップをめぐる5つのアンチパターン

カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを知り、最終的に購買するまでの、顧客の「行動」、「思考」、「感情」などのプロセスを図示したもの。 私自身、過去に作成したことは一度や二度ではありませんし、他の会社で作成されたものを実際に拝見したこともあります。

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各部署のステークホルダーを巻き込み、一日がかりでワークショップなどを実施して作成したカスタマージャーニーマップ。 しかし、カスタマージャーニーマップが実際にマーケティングにおいて有用なものとして活用されていることは意外に多くありません…。 カスタマージャーニーマップをめぐるいくつかの誤解が、カスタマージャーニーの管理・運用を阻んでいるように感じています。

下記にカスタマージャーニーマップ作成をめぐる5つのアンチパターンを、自戒を込めてまとめてみました。

カスタマージャーニーマップ作成における誤解

1. 顧客言葉で書けていない

「カスタマジャーニー=顧客の旅」という言葉通り、カスタマージャーニーマップは顧客の目線に立って作成することが重要です。 とはいえ顧客言葉で語るのは決して簡単ではありません。

顧客言葉の例

  • 今の車、だんだんガタが来てきた。次の車検が来る前に、そろそろ車を買い換えようかな。
  • 商品Bが良い気がしてきた。でも本当にこれで後悔しないか心配。

売り手言葉の例

  • 商品Aには特徴Pもあってとっても便利!
  • 割引●%なんてお得!

「売り手側の言葉で書いてしまう」ということはすなわち、顧客の心理に即したシミュレーションができていないということでもあります。

ターゲット顧客の心理をリアリティをもって把握できていないとそもそも顧客言葉で書くことはできません。 また、1企業によるコミュニケーションの力と限界を理解していないと、非現実的な変化点を発生させてしまうことになりがちです。

「何をいうか」よりも「どう思ってほしいか」をまず考える

「顧客言葉で書けていない」を防ぐためには、「何をいうか」ではなく「どう思ってほしいか」をまず考える必要があります。 「何をいうか」は「どう思ってほしいか」を実現するための手段でしかありません。 「どう思ってほしいか」を顧客言葉で記述し、それを部署内外の人(や、社外の顧客候補に見てもらえればなお良い)にその視点でレビューしてもらうことで、この点は避けることができるでしょう。

2. AISAS・DECAXなどのフレームワークに縛られてしまう

顧客の心理変化を考える際によく参照される、マーケティングファネルの顧客行動モデル。

  • AIDMA(アイドマ)」
  • 「AISAS(アイサス)」
  • SIPS(シップス)」
  • 「DECAX」

など、多数のモデルが学者や広告代理店によって生み出されてきました。

カスタマージャーニーマップの作成の際に起きがちなのが、こういった顧客行動モデルを意識的に、あるいは無意識のうちに、前提にしすぎることで、カスタマージャーニーマップが現実離れしたものになってしまうことです。 確かにAIDMA・AISASなどのよく知られた顧客行動モデルを使うことには、思考が整理される効果もありますし、安心感もあります。 しかし過去記事でも触れた通り、マーケティングファネルの考え方は今日のマーケティングにおいて時代遅れになりつつあります。

マス・マーケティングの時代ならいざ知らず、今日においてカスタマージャーニーマップを顧客行動モデルに基づいて作成してしまうと、汎用的過ぎて実際には起こり得ない、「絵に描いた餅」になりがちです。 顧客行動モデルに依拠する誘惑に乗らず、具体的に事例として存在しそうなカスタマージャーニーマップを作成する必要があります。

ターゲットペルソナを具体的に仮定する

こういった誘惑を避けるために必須なのが、ターゲットペルソナを具体的に仮定することです。 ターゲットペルソナを具体的に定義することで、カスタマージャーニーマップが過度に一般的になることを避け、具体的で現実的な顧客の心理変化を作成することができます。

カスタマージャーニーマップ運用における誤解

3. 「1種類作成したら満足してしまう」

顧客クラスタリングをしてターゲットセグメントを複数に分解しているにもかかわらず、カスタマージャーニーマップは一種類しか作成しない…。 おうおうにしてこういったことも発生するようです。 こういった場合、ややもしてターゲットペルソナの像も複数セグメントのものが混在したものになってしまうといったことが起こります。 ターゲットペルソナの定義における混乱を避けるためにも、カスタマージャーニーマップは最初から複数作成することを想定したほうが良いでしょう。 そうすることでカスタマージャーニーマップにおいて「あれもこれも」と欲張ることを避け、首尾一貫したカスタマージャーニーマップを作成することができます。

代表的なセグメントから、少しずつパターンを増やしていく

とはいえ10種類も20種類も作成するのでは、息切れしてしまいます。 最初はメインとなるターゲットセグメントを想定し、管理・運用工数も考えながら(マーケティングオートメーションツールなどの活用が進んでいれば、複数パターンのカスタマージャーニーマップを管理していてもそれにより線形に工数が増加することはないはずです)数パターンのカスタマージャーニーマップの作成・運用から開始するのが望ましいと思います。

4. 「一度作ったらそのまま改訂しない」

たくさんのメンバーの時間を費やして作成したカスタマージャーニーマップ。 一度作成したが最後、改訂せずに運用してしまう、といったことも少なくないのではないでしょうか。 ひどい場合には、そのまま棚の奥に、もしくはパソコンのどこかのディレクトリにしまわれたままになり、そのまま参照もされないこともあります。

マーケティング施策実施と結合させる

一度も見向きもされないのは、大体の場合、実際のマーケティング施策実施がカスタマージャーニーマップに沿ったものになっていないためです。

  • マーケティング施策のKPIをカスタマージャーニーマップに沿って策定する
  • マーケティングオートメーションツールのジャーニービルダーを作成したカスタマージャーニーマップに沿って管理する
  • マーケティングのプロセス自体に対する新しい知見があった場合には、その結果をカスタマージャーニーマップに沿ってフィードバックする

といった形でその後のマーケティング・プロセスと連動させることができれば、カスタマージャーニーマップを「一度作成した」きりのものでなく「常に更新され続けるベータ版」として運用していくことができます。

カスタマージャーニーマップを「作らない」誤解

5. 「データが不足していてカスタマージャーニーマップが作成できない」

最後に何よりも避けたいのは、「データが不足している」ことを理由に、カスタマージャーニーマップ自体を作成しないことです。 データがないなかでもカスタマージャーニーマップのバージョン0.1を作成することはできます。 そして、たとえバージョン0.1の出来でも、カスタマージャーニーマップが存在することによって、以後のデータ収集を含めたマーケティング活動を加速していくことができます。

その意味でも、「データが不足している」としても、むしろだからこそ、カスタマージャーニーマップの作成は必要なのです。

各部署の声を集め、想像や議論でカスタマージャーニーマップを作成してみる

顧客データが存在しない場合、カスタマージャーニーマップのバージョン0.1を創るために必要なのは、想像や議論によってそれを埋めることでしょう。

  • 利用中顧客の声を日頃から聞いているカスタマーサポートやカスタマーサクセスのスタッフ
  • 顧客候補の声を日頃から聞いている販売スタッフ
  • 商品を1顧客としても利用している商品開発者やQA

など、部署横断の声を集めることで、具体的で現実的なターゲットペルソナとその心理変化の連鎖を設計することができるはずです。

まとめ:複雑なプロセスを回す

クネビン・フレームワークでは、課題領域をいくつかの領域に分けていますが、なかでも「煩雑」な領域と「複雑」な領域を対比しています。 ここでいう煩雑とは、専門家であれば答えが出せる領域。 対して複雑とは、情報の非対称性が存在するなかで意思決定をしなければならない、課題領域のことです。

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カスタマージャーニーマップの作成と運用は、まさにここでいう「複雑」な領域となります。 つまり、顧客の心理をすべては知らないという前提から出発し、そのペルソナと心理を仮定することでマーケティングコミュニケーションのPDCAを開始するための土台がカスタマージャーニーマップだということです。 そこにおいては、

  • ターゲットペルソナの仮定が間違っていればそれを修正する
  • 顧客のインサイトが新たに加わればそれをもとにカスタマージャーニーマップを更新する

といった継続的な改善のアプローチこそが大事であり、それを開始するための最初の第一歩がカスタマージャーニーマップの作成なのです。

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