TOKYO MARTECH BLOG

MarTechのトレンドや要素技術、各種サービスについて取り上げて紹介していきます。

マーケティングにおける部分最適のワナ

本来「どのような市場・顧客に対し、自社のどのような商品サービスを届けるのか」といった全体最適の観点から設計されるべきマーケティング。 しかし、実際にはマーケティングの各活動が部分最適、つまり各部分機能で狭い範囲(見える範囲、考えられる範囲、できる範囲など)で行動をし、最適化されてしまうことは少なくありません。

マーケティング部分最適化の事例

こういったマーケティング部分最適化、見聞きするところでは下記のような例がよく起きているように思います。

デジタルマーケティングが他のマーケティング活動と連携できていない

マーケティング活動横断の最適化という観点では、デジタルマーケティングのみが他のマーケティング活動から孤立し部分最適化に陥ってしまう、といった事例はよく見聞きします。 例えばそれにより、「市場投入期の認知向上を目的とするキャンペーンにおいて、デジタルマーケティングではリスティング広告SEOに力を入れてしまう」、といったことが起きたりします。

これについては、

  • 特にデジタルマーケティング活動は、多くの企業において刈り取り効率の観点から予算拡大してきていることが一般的で、部署設立自体もウェブ制作部署からのスピンオフということも多い
  • 最近ではいわゆるマーケティング企画やマーケティング・リサーチなどの「王道」のマーケティング活動を経由していない「デジタルマーケッター・ネイティブ」の担当者も多い

といった、背景知識やコンテキストの分断が、デジタルマーケティングと他のマーケティング活動との連携を阻んでいるように思います。

マーケティング活動を他部署と連携できていない

マーケティング部門が他部門、例えばIT部門と連携できていない、といったこともあい変わらずよく見聞きするものです。

これにより、「マーケティング部門による導入推進されたツールがIT部門により十分に活用されず、結果思ったような導入効果を得られない」といったことが起きたりします。 例えば、マーケティングオートメーション導入において、マーケティング部門が設計したシナリオなどが前提としていた顧客データ精度を得られておらず、結果、顧客に不要なメールを繰り返し配信してしまうといったことが起きます。

プロダクトのマーケティングと会社全体のマーケティングが歩調が取れていない

有名な事例ではソニーの事例があります。ネットワークウォークマン市場において、ソニーが同じ機能を持つ3つの互換性のないウォークマンを同時に発表したことがありました。当時のソニーカンパニー制を敷き、独立採算の体制をつくることで、大規模化・複雑化した組織を運営しようとしましたが、それが裏目に出た結果です。家電を扱う部署とパソコンを扱う部署が、バラバラに音楽プレイヤーを企画・開発した結果が、この商品の重複を生んでしまったのです。ソニーネットワークウォークマン商品は、その後、アップルのiPodに完全敗北するに至りました。

なぜマーケティング部分最適化は起きてしまうのか

2016年の発売され評判を呼んだ「サイロ・エフェクト」ではこういった部分最適化の弊害について興味深い考察をしています。

「サイロ」とはなにか

雄大なトウモロコシ畑などに佇む穀物格納の塔を「サイロ」と呼びますが、そこから転じ、複雑化する社会に対応するために、組織が細分化、孤立化することを「サイロ」と呼びます。 専門性や効率性を突き詰めるための「サイロ化」は社会の進歩のためにも重要ですが、その「サイロ」に籠って外界との接点が薄くなると、知らぬうちに様々な問題が引き起こされます。

結局、人間の心理的バイアスが部分最適化を生む

高度に専門化した社会においては、様々な組織において、仕事を効率的に遂行していくために組織の専門化は不可欠です。 マーケティング活動も高度化し、マーケティング戦略からマーケティングコミュニケーション、マーケティングリサーチ、あるいはデジタルにおいてはWeb制作やアクセス解析の領域まで取り込み、多数のサブ専門領域に分節しています。

しかしいっぽう、専門化したそれぞれの組織においては、その組織における独自のコンテキストや行動パターン、分類システムが生まれ、強化されていきます。 組織の構成員はややもすると組織外において別のコンテキストが存在することに無自覚となっていきます。報酬制度や人と人の相互作用(あるいはその欠如)もそれを助長していきます。 こういった、人間の心理的バイアスのために視野狭窄と部族主義が生まれることになります。

現代社会においては、一般的に専門化と集中が好ましいものとされてきましたが、いっぽう、われわれの世界は効率化を追求しすぎると、かえってうまく機能しなくなるわけです。 この点は、現代のマーケティングにおいても非常に悩ましいパラドクスだと思います。

マーケティング部分最適化を打破するために

ではこのようなマーケティング部分最適化を打破するためにはどうすれば良いのか。「サイロのコントロール」は人間の心理的バイアスとの終わりなき戦いであるからこそ、コントロール手法を組織のプロセスに埋め込むことが重要ではと思います。

組織の観点から:心理的バイアスを相対化するプロセスを用意する

組織の観点からは、心理的バイアスが人間の認知の限界に帰結するものだとすると、絶えずそのときそのときの常識を揺るがせる、あるいは相対化させるようなプロセスを組み込むことが重要でしょう。

具体的な施策としては下記となってくると思いますが、これらが前述の目的に対して効果的な手段として連動していることが重要でしょう。

  • 部門の境界を柔軟で流動的なものに保つこと
    • 例えば自社の活動がAとBと定義し、そのうちAをマーケティング部門(あるいはそのサブレイヤーであるデジタルマーケティング部門)の責任とおいたときに、市場の変化によって自社の活動にAとBとCが必要になることが起こります。そこにおいては、こういった「1つ上のレイヤー(ここでいうとAとB→AとBとC)の変化を絶えず確認し、そこから演繹し直す」ことを組織の思想に埋め込むことが必要になってきます。
  • 報酬制度やインセンティブに全体の観点を加えること
  • 情報の部門間のIN/OUTを十分なものにすること
  • 心理的バイアスに対してニュートラルな情報技術の力を借りること

個人の観点から:「インサイダー兼アウトサイダー」の視点でサイロをコントロールする

個人の観点では何をすべきでしょうか。 「サイロ・エフェクト」で紹介されている、文化人類学の基本的考え方を拝借することはその一助になるのではと思います。

  1. 生活を経験することを通じてミクロレベルのパターンを理解し、マクロ的全体像をつかもうとする
  2. オープンマインドで物事を見聞きし、社会集団やシステムのさまざまな構成要素がどのように相互に結びついているかを見ようとする
  3. 研究対象の全体を見ようとし、その社会でタブーとされている、あるいは退屈だと思 われているために人々が語らない部分に光を当てる
  4. 人々が自らの生活について語る事柄に熱心に耳を傾け、それと現実の行動を比較し、建前と現実のギャップを見出す
  5. 異なる社会、文化、システムを比較する
  6. 人間の正しい生き方は一つではない、という立場をとる

以前に紹介したマーケティングテクノジストというキャリアパスは、こういった「インサイダー兼アウトサイダー」として、部分最適化を打破しうる存在になるのではと考えています。

併せて読みたい

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

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