マーケティングの効果を高めるためには、そのままでは大きすぎる市場を、共通のニーズやその他属性に応じていくつかのサブセットに分解する必要があります。 それがマーケティング・セグメンテーションです。
マーケティング・セグメンテーションは、いくつかの切り口で実施することができます。今回はマーケット・セグメンテーションにおいて考慮すべき属性を整理しまとめてみました。
出典:Demographics by Edmund Boey - Dribbble
マーケット・セグメンテーションの5つの属性
インデックス
1. ビヘイビアル属性(行動属性)
顧客に行動に現れる特徴をもとにセグメントを行います。例としては下記です。
- コンバージョン有無
- トランザクション(売上数量、利用商品など)
- インタラクション(インバウンドコール)
- ウェブサイト訪問 などなど
オケージョナル属性(行事属性)
特定の時期にあるかどうかで顧客をセグメントする「オケージョナル属性」もこの属性に当たるといえるでしょう。
オケージョナル属性はさらに下記の3つに分かれます。 1
- ユニバーサルなオケージョナル属性:世界中に共通の特定の時期やイベントの有無により生じるセグメント。たとえば「ワールドカップ」「オリンピック」といったイベントの存在は特定の企業にとってチャンスであり、であるからこそこの時期を企業が特定のセグメントとしてみる意義があります。
- 個人ごとに規則的に訪れる行事:例えば誕生日や結婚記念日がそうでしょう。例えばコーラは顧客がイタリアにいようが日本にいようが関係なく、喉が乾いているか否かで顧客をセグメントします。 2
- あまり頻繁ではない行事:例えば転職や結婚、といった行事がそれにあたります。ブライダル業界はプロポーズ、結納、挙式、ハネムーンといった、結婚に関連する一連の行事のオケージョナル属性でもってマーケットをセグメントし、マーケティングをしています。またリクルートが初期、この属性の顧客をセグメントしてビジネス展開を図ったことは有名です。
2. サイコグラフィック属性(心理属性)
市場分析におけるセグメンテーションの視点のうち、個々の消費者の心理的(内面的)側面に大きく関わる特性です。例としては下記です。
- アンケートデータ
- 趣味
- 希望
- プライバシーパーミッション などなど
文化的属性
顧客の属する文化にも基づいてセグメントを行うための特性もサイコグラフィック属性の一つといえるでしょう。 この属性でセグメントできれば、顧客への洞察に基づき、顧客が文化的に良しとするやり方で効果的に顧客とコミュニケーションを取ることができます。例としては下記です。
- 社会的慣習
- 道徳(金銭やモノの所有に対する考え方など)
- 普段使用している言語 などなど
文化的属性の導出には固有名詞学に基づく名前分析なども活用されます。Wikipedia英語版 3 ではオーストラリアでの名前分析に基づく文化的背景の推測は80-85%の正確性があったとの事例を紹介しています。
3. デモグラフィック属性(人口統計学的属性)
人口統計学的属性、つまり性別、年齢、住んでいる地域、所得、職業、学歴、家族構成などその人のもつ社会経済的な特質データです。例としては下記です。
- 年代
- 年齢
- 居住地域
- 出身地
- 職業
- 学歴
- 収入
- 持ち家区分
- 保持車種
- 家族構成
- クレジットカード番号 などなど
これが企業を顧客とするB2Bビジネスであれば売上規模、従業員規模、会社の所在地などがこの属性となります。
世代属性
「世代属性」はデモグラフィック属性のなかでも特に考慮したい属性といえるでしょう。 人の出生した時期や就職する時期の社会情勢、あるいは就学した時期の教育政策の変化などに基づき生活ライフスタイルや購買行動も変わってくるためです。
国内だと「団塊の世代」に始まり「しらけ世代」「バブル世代」「新人類」「団塊ジュニア」「ポスト団塊ジュニア」「新人類ジュニア」と続きます。 4 アメリカだと「ベビーブーマー世代」「Generation Y」などといった分類がこれにあたります。
4. ジオグラフィック属性(地理的属性)
地域ごとの特定の事情により顧客ニーズの違いが発生する場合に取り上げられる属性です。具体的には下記などです。
- 気候
- 交通事情
- 人口密度
- 行政単位 などなど
ジオデモグラフィック属性(地理学・人口統計学的属性)
この属性とデモグラフィック属性の掛け合わせとして、居住者クラスター分析(geo-cluster approach)という考え方もあります。 国勢調査をベースに、年齢別人口、世帯人員別世帯数、産業別就業者、住宅所有・建て方、家族形態など居住特性を表す主要項目を用いて統計解析を行い、地域をセグメンテーションします。
5. コンテキスト属性
ここまでの4つの属性は従来より重要とされてきた属性ですが、最後に取り上げる「コンテキスト属性」はマーケティングをめぐるテクノロジーの変化によって重要度が上がった進行のセグメント属性と言えます。 同じ顧客でも、その顧客の置かれたコンテキストによってマーケッターにとっての(見込み顧客としての)魅力は日々刻一刻と変わり続けます。このコンテキストに基づいて顧客をセグメントする考え方です。
まさにマーケティングオートメーションなどで多用される考え方であり、テクノロジーによってこのコンテキストの変化を捉えることのフィジビリティーが上がったために5つ目の席を占めるに至ったといえるでしょう。
「One-to-Oneマーケティング」という言葉が標榜されて久しいですが、 「アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える」では「0.1人」規模でセグメントするアマゾン の事例が紹介されています。
顧客が特定の商品を閲覧すると、それまでの顧客の移クリック、購入データが統合・分析され、代替品や補完品が提案される。それと同じくらい有益な情報は、こうしたユーザーデータから抽出された意思決定プロセスの要約だ。それは特定の商品をクリックした後、最終的にそれ(あるいは代替品)を購入した人 の割合(パーセンテージ)というかたちで示される。 (中略) 何十ものざっくりとした顧客セグメントを作るかわりに、アマゾンは一人ひとりの顧客の刻々と変化するニーズや関心を反映した「0.1人」規模のセグメントにも対応できるようになった。
「One to Oneマーケティング」というときに、私達は具体的なニーズを維持し続ける自律した個人を顧客として想定しがちですが、実際には顧客のニーズやその背景になるコンテキストは日々、刻一刻と変化し続けます。このようなマーケティングの実情において、コンテキスト属性で顧客をセグメントすることは非常に重要といえます。
- 前日ウェブで見ていたブランドのショップの近くにちょうど立ち寄った (地理的に近いところにいるというコンテキスト)
- それまで知らなかったサービスに友人のツイートで興味を持ってサイトを見てみた (好意的な友人のツイートを見たというコンテキスト)
など、顧客の刻一刻と変わるコンテキストに応じてセグメントを更新し続けます。
いっぽう、一人ひとりの顧客を「0.1人規模」でどのセグメントかを常に分類し続け、それに伴う最適なマーケティングコミュニケーションを実施するのには膨大なコストがかかります。 だからこそ重要なのが、このプロセス(スコアリングとナーチャリング)の自動化なのです。
まとめ
以上、多数の属性を見てきましたが、次のマーケティング活動のインプットになるよう、このなかから対象の商品・サービスに応じて、顧客の質を上げ、かつアクセス(セグメント)可能な属性をピックアップしていく必要があります。
逆に、「セグメントを細かく切りすぎない」ことも大切でしょう。母数が少なくなってしまっては元も子もありません。例えば複数のセグメントに対して同様のオファーをしているとしたら、それらのセグメントはより大きい1つのセグメントにまとめられる可能性が高いです。
具体的には下記の条件が、有効なマーケットセグメンテーションか否かを見定める尺度となるでしょう。
- 測定可能性:その顧客セグメントの市場規模や購買力を測定可能か
- 維持可能性:その顧客セグメントにマーケティングを実施する価値のある規模、購買力があるか
- 到達可能性:その顧客セグメントに自社がアクセス可能か
- 実行可能性:その顧客セグメントに対し、自社が有効なマーケティングを実施できるか
スタートアップにおいてよく言われる格言に「多数のLikeより少数のLoveを」 5 があります。しかしこれはスタートアップのみに留まる話ではありません。 自社がアクセス可能な質の高い顧客セグメントを探し続けることはいかなるビジネス規模のマーケティングにおいても常に課題であり続けますし、その検討においてこれまで上げたような属性を参照することは大いに有意義ではないでしょうか。
併せて読みたい
![]() | アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える アンドレアス・ワイガンド/土方 奈美 文藝春秋 2017年07月28日 売り上げランキング : 93610
|