TOKYO MARTECH BLOG

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AdobeのMarketo買収が意味するもの

9月20日(木)に発表された、Adobe社によるMarketo社の買収。 この買収は、Martechの今後の展開を占ううえでも非常に大きなエポックになるのではと思います。

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PSR15倍の高値での買収

かねてより噂のあったAdobe社によるMarketo社の買収。 9月20日(木)についに両社よりその発表がなされました。

買収額は47.5億ドル。 信用格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスによれば、Marketoの2017年の収益は約3億2,100万ドルだったため、Adobe社はMarketo社にPSRでみて約15倍の評価をつけたことになります。 1

これは業界通例からしても異例の高評価であり、Marketoの高い成長性と、Adobe社のそこへの高い期待を伺わせます。

Adobe社の思惑

Adobe社はPhotoshopなどの画像ソフトをサブスクリプションモデルに転換に成功したことでもよく知られる会社であることは、以前当ブログでも取り上げた通りです。

と同時に、積極果敢な買収を通じて事業ポートフォリオの構築をしようとしている会社でもあります。

しかし今回の買収はそのAdobe社をもってしても史上最大の買収となりそうです。 あの訴訟合戦まで繰り広げていたMacromedia社の買収額よりも巨額である点に、Adobe社の本気が伺えます。

  • Adobe社の代表的な買収例
企業名 商品カテゴリ 買収額
1994年 Aldus Publishing software United States $437,676,000
1995年 Frame Technology Publishing software United States $566,567,000
1997年 Sandcastle Internet latency software United States $3,500,000
2002年 Accelio Software Canada $72,000,000
2005年 Macromedia Internet software United States $3,573,000,000
2009年 Omniture Web Analytics United States $1,800,000,000
2011年 Auditude Video advertising platform United States $120,000,000
2013年 Neolane Cross-Channel Campaign Management France $600,000,000
2015年 Fotolia Microstock photography agency United States $800,000,000
2016年 TubeMogul AdTech United States $540,000,000
2018年 Magento EC Software United States $1,680,000,000
2018年 Marketo Marketing Automation Software United States $4,750,000,000

※出典:List of acquisitions by Adobe Systems - Wikipedia

Adobe社がMarketo社の買収によって得たい果実はなんなのでしょうか。

B2Bマーケティングオートメーション市場への本格的な参入

Forresterによると、B2Bマーケティングオートメーションのグローバルな市場は2017年から2023年にかけて19.4%の年平均成長率で成長し、2017年の13億ドルから2023年には37億ドルになると予測しています。

Adobe社は当然のことながら、この成長市場に参入したいと考えていますが、B2B顧客を持ちつつも、B2Bマーケティングオートメーション(MA)のカテゴリーにおいてはこれまで中心企業とは目されていませんでした。

Adobe社は、この市場に本格的に参入するために、Marketoがもたらす機能を必要としていました。そしてMarketo社の買収は非常に良い選択といえるでしょう。MarketoはほぼすべてのB2Bマーケティング・オートメーション・プラットフォームの選択肢のリストにあるためです。

AdobeはB2C指向の電子メールサービスプロバイダである「Neolane」を既に提供していますが、「Marketo」は主にB2Bシナリオに重点を置いています。「Neolane」と「Marketo」は少しオーバーラップしますが、Salesforce社が「Salesforce Marketing Cloud」と「Pardot」をそれぞれ提供しているように、MAの領域において顧客の業界ごとに合わせたソリューションを提供することになるでしょう。

他のB2Bソリューションとのクロスセル

もともと中堅企業向けをメインターゲットとして提供されてきたMarketoのおよそ5,000人の顧客の大半は、Adobeにとって初めての可能性が高く、かつマーケティングにおいてコンテンツ作成から分析、広告その他集客まで、幅広い範囲のニーズを持っています。

Adobe社にはマーケッター向けソリューションとして「Adobe Maketing Cloud」「Adobe Analytics Cloud」「Adobe Advertising Cloud」、さらにはクリエイティブソリューション群の「Adobe Creative Cloud」、ドキュメントソリューション群の「Adobe Document Cloud」もあります。

Marketo社買収で得た新しい顧客にこれらのクラウドソリューション群を提供することも、もちろんAdobe社の目論見の1つでしょう。

Adobe Experience Cloud」としてのラインナップ強化

Adobe社では、2017年から既に「Adobe Maketing Cloud」「Adobe Analytics Cloud」「Adobe Advertising Cloud」から構成される「Adobe Experience Cloud」をマーケッター向けのプラットフォームとして打ち出していました。

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が、実際にはSFAカスタマーサービスソリューション、ECサイト構築ソリューションが存在しないなど、SalesforceOracleIBM、SAPなどのライバル企業と比べて、プラットフォームとしてワンストップ提供するにはいくつかの要素がかけていたことが否めません。

「Marketo」のCRMシステムとの協力な連携はここにおいてAdobe社の能力を補完するものになりえます。

結局のところ

結局のところ、これらにより、エンタープライズCX市場でSalesforceOracleIBM、SAPと競争する能力をAdobe社が有するようになった、というのが最大の果実といえるでしょう。

本買収が「Martech」にもたらす(かもしれない)もの

次に今回の買収によって「Martech」業界に起きうる(かもしれない)展開を整理してみます。

M&Aの波がやってくる

Marketo社といえばマーケティングオートメーションの領域においてグローバルで5本の指に必ず入るベンダーであり、本来であれば上場規模の企業です。 また2006年に創業したマーケティングオートメーション専業のスタートアップでもありました(Adobe社前にVistaというファンドに買収されていましたが)。

マーケティングスイートを志向する大企業がプラットフォームの要素を埋めるため、人材を獲得するため、また潜在的なライバルの芽をつむためにM&Aを繰り返す動きは今に始まったことではありませんが、 このMarketo社が買収されたということは、非常に象徴的だったように思います。

目を別方向に転じると、5年ほど前から「Martech」が注目を集めはじめてからというもの、Martechスタートアップが多数生まれ、その数は6,829社に及んでいます。 2 9割の企業がアーリーステージでエグジットするというスタートアップの世界 3 において、これらの「第一世代のMartechスタートアップ」はブレイクスルーを遂げるか売却・解散の道を辿るかの分かれ道にあるといえるでしょう。

2018年〜2020年あたりにかけて、これらの「第一世代のMartechスタートアップ」が買収される波がやってくるのではないでしょうか。 スコット・ブリンカー氏が自身のブログで「Martechの統合と拡大のパラドックス」に触れていますが、それに則るとMarketo買収はMartechのランドスケープが拡大から統合に転じる1つのエポックになるのかもしれません。

新しいMartechスタートアップが胎動する

いっぽうで、Marketo社の買収がPSRで15倍の高値をつけたということは未来の起業家や投資家を勇気づけるものでもあります。 Vistaの資金をはじめ、投資家の資金が「Martech」に流れ込む動きは変わらないでしょうし、活気づく投資環境から新しい世代のMartechスタートアップが生まれるのではないかと見ています。

その方向性は大きく下記の2つに分かれるのではないかと見ています。

前記事で紹介したようなスタートアップがこちらにあたります。

  • 既に構築されたマーケティングプラットフォーム上で新しいカスタマー体験を提供するもの

9月19日(水)、Salesforceは「App Exchange」のビジネスアプリストアから6,000,000回以上のインストールがあったことを発表しました。 「App Exchange」には既におよそ3,500のアプリが存在しています。 4

HubSpotも同様のエコシステムの提供に力を入れています。 5

HubspotConnect1017to2018

これら少数の大企業により提供される「マーケティングプラットフォーム」上で、スタートアップがこれらに連携する専門のMartechアプリケーションを開発することが可能になっています。 プラットフォームの上に構築したソリューションでは、プラットフォーム企業が用意した顧客に対して、新興サービスを提供することができます。 iPhoneApp StoreAndroidGoogle Playにおけるサードパーティー企業がそうであったように、これらのスタートアップは顧客、投資家などから十分な資金とフィードバックを得て、有機的に成長することができるでしょう。 これらの中には複数の「マーケティングプラットフォーム」に同時にアプリを提供し、爆発的なヒットを飛ばす企業も出てくるかもしれません。

まとめ

マーケティングプラットフォームの寡占化」「Martechサービスの爆発的な増大」という2つの(一見すると相反するようにも見える)流れに対して、今回のAdobe社によるMarketo社の買収は何らかの分水嶺になるのか。今後も注目していきたいと思います。

参考

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