TOKYO MARTECH BLOG

MarTechのトレンドや要素技術、各種サービスについて取り上げて紹介していきます。

信頼の壁を飛び越えるマーケティング手法

進展するシェアリングエコノミーの裏には、信頼の姿の劇的な変化があります。 それまで気味が悪いものや、危険すぎると思われていた行動。それにいつの間にか我々が参加している背景に、テクノロジーのなかに組み入れられた信頼という要素があります。

  • 見知らぬ家の家に泊まるためのマーケットプレイスなどというアイデアは当初、とんでもなく馬鹿げているように思えたのではないでしょうか。しかし今、民泊のAirBnbは観光産業で世界で2番目に価値のあるブランドとなっています。
  • 10年前には、インターネットのプロフィールだけを頼りに知らない人の自家用車に乗る日が来るとは想像もできませんでした。しかし現在、Uberは世界でも指折りの企業となっています。

そこにあるのは、レイチェル・ボッツマンが「TRUST - 世界最先端の企業はいかに信頼を攻略したか」で指摘する「分散された信頼」という信頼の革命です。

今の私達は大企業より他人のほうをはるかに信頼しています。 一握りの権力者やオピニオンリーダーのお墨付きよりも、数多くの自分たちを同じようなユーザーの意見を信じるようになっています。 これを可能にしているのが、例えばレビューのシステムなどのテクノロジーです。

このような時代において、企業は新しい商品やサービスのマーケティングにおいて、どのように信頼の壁を飛び越えるべきなのでしょうか。

信頼の積み木を重ねる

新しい発想への信頼が、偶然に築かれることはありません。まず、誰の心にもある心理面と情緒面のハードルを乗り越えなければ、信頼は築かれません。

新しい発想に人々が信頼を寄せるようになる際の条件を、レイチェル・ボッツマンは次の3つの原則に集約しています。

  1. カリフォルニアロールの原則
  2. メリットの原則
  3. 信頼のインフルエンサーの原則

1. 「カリフォルニアロールの原則」

「それは何?」という心理的ハードルに答えるのが「カリフォルニアロールの原則」です。

1960年代の終わりのアメリカでは、外食で生の魚を食べるという発想自体が奇妙で、危険にさえ思えました。そんな時代に人気に火が付いたカリフォルニアロールは、外側に米が見えて内側に海苔のある「裏巻き」によって提供されました。結果、見た目的にアメリカ人の好みに合っていたため、人気に火が付いたというのです。

カリフォルニアロールの教訓は単純だ。人間は本当に新しいものは欲しがらない。馴染みの あるものをこれまでと違うやり方で提供するほうがいい。 - ニール・イヤール『ハマるしかけ』

カリフォルニアロールの原則は、新しいものと馴染みのある何かを組み合わせて、「新しいのに見慣れたもの」を作るというルールに基づいています。心理学者のロバート・ザイアンスはこの現象を「単純接触効果」、またの名を「熟知性の法則」と名付けました。

当たり前だが人間は、馴染みのある人やものに囲まれていると居心地が良いのです。その心理はさまざまなやり方で利用できます。

カリフォルニアロールの原則」を満たすために

新しい商品やサービスにおいても、ユーザーにとって馴染みのあるものと関連づけることで、「カリフォルニアロールの原則」を満たすことができます。

例えばAirBnbは新しいユーザーに、「自宅で近所にも泊まれる場所がある」ということを発見させるようにサイトを設計しているといいます。ユーザーは、見知った近所の場所にも「もし泊まりたければ泊まれる」ことを理解することで、自分が見知っている近所の場所と関連付けてAirBnbを信頼するのです。

2. メリットの原則

「自分にとってどんな得になるのか」という問いに答えるのが「メリットの原則」です。

私達は新しいものが何を可能にして、何を与えてくれるかがわからないと、その新しいものを使う気にはなりません。そのためにわざわざ既存のものを捨てようとは思わないのです。

ジェームズ・コールマンの研究によると、研究当時の新しいテクノロジーであったテレビ、ビデオ録画機、商用旅客機などの受容において、こうした発明の恩恵とリスクを評価して信頼するかどうかを決めていることが示されています。

「メリットの原則」を満たすために

「自分にどんな得があるのか」、という問いへの答えは顧客のニーズに沿ったものでなければなりません。

例えば自動運転車なら、

  • 機械が人間のしごとを肩代わりするメリットがリスクを上回るのか
  • 運転しなくてすむのなら、その時間に何ができるのか

といった問いに明確に回答することが「メリットの原則」を満たすことにつながるでしょう。

3. 信頼のインフルエンサーの原則

「ほかに誰がやっている?」という問いに答えるのが「信頼のインフルエンサーの原則」です。

新しいアイデアを信頼してもらう際、特に結果が見えないときには、社会的証明が間違いなく役に立ちます。サイトのレビューの数やユーザー数を大々的に宣伝するのはそのためです。

「信頼のインフルエンサーの原則」を満たすために

新しい商品やサービスにおいては、誰が「信頼のインフルエンサー」になるのか、適切なセグメントを発見し、働きかけていくことが必要でしょう。

社会的証明を得てそこから信頼を生み出すには、必ずしも、巨大な群衆が必要というわけではありません。例えば個人間送金サービスの「トランスファーワイズ」にとっての信頼のインフルエンサー年金生活者でした。 知名度のない個人間送金サービスを信頼してもらうには、「普通あら無名企業と取引するようなリスクを追わないタイプのユーザー」を見つける必要があり、その意味で年金生活者は適任だったのです。 いっぽう年金生活者としても、海外に住んでいて定期的に年金をポンドからユーロなどに変える必要のある場合には、銀行の手数料は送金額の大きな割合を締めていたことから「トランスファーワイズ」の利用にはメリットがありました。

まとめ

レイチェル・ボッツマンはこうも指摘します。

つまり、「それは何?」「自分にとってどんな得になる?」「ほかに誰がやっている?」という3つの問いが、バカげていると一蹴されたアイデアを不思議に見慣れたものに見せる方 法を教えてくれる。新しいアイデアへの信頼がどのように広がるかが、この3つの原則で説明できる。ベンチャー企業や新製品や新しいアイデアへの信頼を築いた経験のある人なら、自覚しているかどうかにかかわらず、みんなこの過程を経ているはずだ。

上記の三原則に基づいて、どのように信頼の積み木を顧客に対して築いていくかを設計することが、現代における新規性の高い商品やサービスの企画・マーケティングするうえでは非常に有益でしょう。

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