TOKYO MARTECH BLOG

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「テスト販売プラットフォーム」としての「ふるさと納税」返礼品市場

2008年の開始から10年、一気に市民権を得た感のある「ふるさと納税」。 最新の実績では、2017年のふるさと納税の寄附金額総額は3,600億円超と前年度比の約1.3倍の伸びを示しています。 「ふるさと納税マーケット」の潜在市場規模は2兆円(国民総住民税の20%)ともいわれます。 それから比べると現状の市場規模は18%程度であり、今後も市場規模は拡大していくことが見込まれます。

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ふるさと納税がこれほどに盛り上がった理由は、なんといっても返礼品でしょう。 実質的な経済負担が2,000円で、様々な返礼品を受け取ることができるのでお得だというのが大きいです。

以前に「プラットフォーム」について取り上げましたが、 ふるさと納税の「返礼品市場」は、消費者に対する見本市としての色の濃い、通販候補商品の「プラットフォーム」と言えるでしょう。

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しかし、ふるさと納税の返礼品市場はレッドオーシャンになりつつあり、全ての事業者が成功しているわけではありません。 この市場を事業者がどういった活用の仕方をするのが望ましいかについて見ていきたいと思います。

ビジネスとしては歪な「返礼品市場」

この市場の構造として、なんといっても、ビジネスとしては歪なバリューチェーン構造になっていることが挙げられます。

  • 返礼品を提供している事業者とそれを買い上げている自治体との間ではれっきとした価値交換の「商売」が成り立っている一方、最終的にその返礼品を受け取る寄付者と自治体の間では商売がに成り立っていないという点。寄付者の実質的な経済負担は2,000円でしかないため、寄付者側としては購入をしているという感覚はありません。
  • 寄付者と返礼品事業者の間に対して直接の「納税」をしたわけではない点。そのため、返礼品事業者に対するロイヤリティはそこまでありません。事業者の名前を記憶していないことすらあります。

以上の通り、ここにおける寄付者の感覚は、一般ビジネスでいえば「低額トライアル」をしたに近い感覚といえるでしょう。 しかし、サロンやスポーツクラブなど、LTVの長い来店ビジネスが「低額トライアル」による先行投資をペイさせているように、そこからのCRM投資には大きな機会が存在します。

事業運営にあたっては、この市場構造と消費者志向の特性を鑑みながら検討することが必要となります。

「テスト販売プラットフォーム」としての活用方法

返礼品提供事業者の視点から

テストマーケティングとしての活用

ふるさと納税の返礼品提供事業者は、EC事業者と重なりが少ないと言われています。 実際、ふるさと納税ポータルサイト等で提供されている返礼品のうち大半はそれまでインターネットでは販売されていなかったものです。

こういったEC事業を運営してない農家や漁師などの返礼品提供事業者にとっては、ふるさと納税での返礼品の提供は、通販を開始する前のお試しともなります。 消費者のニーズが直接生産者に届くので、どの産品を重点化すべきかがこのプラットフォームによって判断できます。 生産者にとっても流通コストを抑えた形で全国の市場でチャレンジできます。

また、「返礼品」なので、発送日指定や梱包などの付随業務について求められるクオリティは高くありません。 しかし、これらこそが返礼品提供事業者にとって、通販を開始するための最大のハードルとなっていることは少なくありません。

梱包や発送に共同の場所を作ることでこういった課題に対処している例としては、平戸市のような例があります。 自治体がプラットフォームを提供することは、EC事業への道をひらき、結果、地域全体としての販売力の向上につながるのです。

CRMによる囲い込み

既にレッドオーシャン化しつつある返礼品市場においては、本質的に新規顧客による一元買いに頼るだけではなかなか大きな収益は生まれません。 先にも述べた通り、「低額トライアル」による先行投資をペイさせるCRMへの投資が必要です。 ふるさと納税の返礼品市場は楽天Yahoo!などのモールに比べるとその制限は低く、うまく顧客を育てられれば大きな収益源となる機会が存在します。

これを成功させるためには「低額トライアル」を実施した顧客候補を、リピート顧客に育てていくようなカスタマージャーニーの設計が必要でしょう。 ふるさと納税において一般的な食品販売においても、工夫次第ではこれに親しいCRMを実施することができます。

例えば高知県四万十町などが、「定期便」として返礼品を出品しているのは寄付者とのタッチポイントを増やし、リピート顧客に育てていく工夫の一貫と言えそうです。

自治体の視点から

地域経済への波及効果

自治体としても、地元のものを返礼品として提供することで、地域経済への波及効果を期待することができます。 雇用の増加、新たな設備投資が期待でき、また地元の事業者が潤うことで法人税収のアップも期待することができます。 公共事業などの経済波及効果が限定的なのに比べると、他の取り組みにはない効果を提供することができるといえます。

シティプロモーション機会

都心にアンテナショップを出している都道府県が多数ありますが、それらの商圏が小さいことと比較するとふるさと納税によるシティプロモーション効果は非常に高いといえるでしょう。 ただ、自治体のシティプロモーションにおいても、移り気な寄付者をいかに離さず囲い込むかが重要となります。

返礼品という「餌」から寄付対象の自治体そのものへ寄付者の関心を惹くためには、下記のような施策が必要です。

  • 寄付の使途を魅力的に説明し、関心をもたせる(そのためにも選択行動を促す)
  • リアルな場での交流機会につなげる(都心でのイベント、アンテナショップへの来場促進から、地域そのものへの来訪促進など)

例えば北海道東川町では「ふるさと納税」を「株主制度」として寄付者にプレゼンテーションすることで、これに一定程度成功しており、参考になります。

まとめ

ふるさと納税の「返礼品市場」は、通販候補商品の「テスト販売プラットフォーム」として、今後も楽天Yahoo!などのモールなどとは異なる進化を見せていくと考えられます。 事業者、また地方自治体においては、この市場を新規顧客開拓のためにどのように活用できるかが問われていると言えそうです。

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